いだてんを見て

昨日、大河ドラマいだてん〜東京オリムピック噺〜」(以後いだてん)の最終回を見終えた。

今回初めて大河ドラマを見た。

民放でやっているドラマはまあまあ見る方だし、やたら長い韓ドラもいくつか見たことがあったし、NHKの朝ドラなんかは昔からずっと見ていた。が、大河ドラマだけは一度も見たことがなかった。

もともと日本史全体に興味を持っていなかったのと、長くて重く、結構難しいイメージを持っていたからだ。

ただ、今回のいだてんに限っては、大好きな箱根駅伝創始者である金栗四三への興味がかなり大きかったのに加え、監督がクドカンこと宮藤官九郎ということで、大河ドラマという名目ではあるものの普通のドラマに近いものなのではないかということで見始めた。

 

タイトル「いだてん」の通り、金栗四三メインのドラマかと思いきや、意外にも後半はずっと田畑政治と1964年の東京オリンピックへ向けたストーリーだった。田畑政治は正直いだてんを見ることがなければ知ることもなかった人物だったけれど、阿部サダヲの演技にものすごく惹きつけられた。「〇〇じゃんねぇ!」という口癖とともにまくしたてるオリンピックへの熱のこもったセリフにどんどん惹きつけられていった。

 

視聴率が悪かったというが、私はかなり「いだてん」が気に入ったので、ここからは感想をどんどん書いていく。(この感想は、「いだてん」を見た前提のものです!)

まず、「いだてん」はすべて史実を基にしたフィクションだった。それがとにかく良かった。事実に対する驚きとドラマとしての面白さのバランスが絶妙だった。特に、神木隆之介が演じる古今亭五りんがかなり重要な役割を担っていたのだが、この古今亭五りんが事実とフィクションを繋いでドラマとしての面白さを存分に引き出していた。

 

古今亭五りんこと”五りん”は、ビートたけしが演じた晩年の古今亭志ん生に突然弟子入りを志願してくる青年として登場する。幼いころに戦争で父親を失っている五りんだが、その戦死した父親というのは、金栗四三にランナーとして弟子入りするも、学徒出陣で出兵し満州で戦死する小松勝(仲野太賀)であった。更にその小松勝の母親、つまり五りんの祖母は杉咲花演じるシマだったが、このシマは1923年の関東大震災で亡くなってしまう。

フィクションの人物が史実を邪魔することは無いものの、関東大震災や戦争という歴史の中で重要な出来事をしっかりと物語に絡めてくれていたのだ。

 

そして次に、ところどころで現れる実際の写真や映像がNHKならではであった。通常の大河ドラマであればもっと古い歴史を扱っていて写真・映像なんて無い時代であるものの、今回のいだてんに関しては実際の映像が多く残されている時代なのだ。古いものでは、日本人女性初のオリンピックメダル獲得となった、1928年アムステルダムオリンピック800m走の人見絹江の映像も放送されていた。この800m走について、実際の映像とドラマ映像をかなり綺麗に組み合わせているのだ。ドラマのストーリーは、当時の女性がスポーツをやっていくことへの難しさを伝えていた章としての集大成であり、かなり感動的なシーンだったが、そのストーリーとしての感動を決して邪魔することはなく実際の映像が織り交ざり、物語への感動と、100年近く前の偉業を実映像で見ることが出来ることへの感動とで色々な感情が押し寄せてきた。

 

実際の映像とドラマとの組み合わせはほんとうにほんとうに秀逸だった。秀逸なんて、上から目線のような言葉になってしまうけれど、とにかく凄いと思ったのだ。一番凄かったのは学徒出陣のシーンだ。先ほど話した五りんの父親、小松勝は金栗四三に弟子入りしオリンピック出場を目指すのだが戦争がやってきてしまう。学徒出陣は皮肉にもオリンピックを開催するために建てた明治神宮外苑競技場で行われた。雨の中行進する小松勝含めドラマの映像と、実際の当時の行進映像が重なり合い、戦争への虚しさがより一層引き立てられた。この学徒出陣を見送る側には金栗四三田畑政治の2人がいて、物語を徐々に田畑が引っ張っていく。

最終回の1964年の東京オリンピックが無事開催されたシーンでも、この学徒出陣を振り返るシーンがある。あの日は雨で暗かったが、オリンピック開会式の日は奇跡的な快晴。同じ場所なのに全く違う世界の対比が、オリンピックがまさに”平和”の祭典であることを強調させていた。

 

そして最後に、回想シーンがとても良かった。実際の歴史を歩んでいるから、人の老いというものがある。特に金栗四三は、多くの登場人物の中で唯一、幼少期~晩年までをドラマの中で追ってきた。物語のメインが金栗から田畑に変わった後も、時折金栗がストーリーには絡んでくる。NHKの朝ドラなんかもかなり長い時代を追っていくし、それこそ今回のいだてんよりも一人に焦点を当てて生涯を追っていくドラマだが、朝ドラには15分という制約がある。どうしても回想シーンは朝ドラではカットされてしまうのだ。45分ある今回の大河では、多くの回想シーンが現れた。最も良かったと思ったのは、最終回での1912年ストックホルムオリンピックの回想シーンだ。1964年の東京オリンピックでは、多くの国がオリンピックへ参加した。そんな中、初出場のコンゴ共和国はたった2人での参加だった。そこで思い出されるのが、初めて日本が金栗・三島弥彦(生田斗真)のたった2人で参加したストックホルムオリンピックだ。いだてんというドラマの始まりであり、このストックホルムでの行進を、東京オリンピックコンゴ共和国の2人の選手と重ねてくるのは、最終回に一気に長い長い歴史の始まりを思い出させてくれたのだ。更に小さな金栗少年がせっせと走っていたシーンの回想もあり、物語は田畑にバトンタッチされていたものの、メインの主人公であった金栗がずっと物語を引っ張ってきてくれたことを感じさせてくれた。

 

という訳でかなり長くなってしまったが、とくにかくとにかくとにかく..!ものすごく面白かった。最終回をリアルタイムで見ていなかったが、放送日に田畑政治の口癖を真似した「いだてん最高じゃんねぇ!」という言葉がTwitterのトレンド入りしていたのを見かけた。最終回の録画を見た後、本当に心の底から「いだてん最高じゃんねぇ!」と思った。

 

いだてんは、大河ドラマとしてではなく、東京オリンピックを何十倍にも楽しむために作られたドラマだと私は勝手に思っている。そういう意味では視聴率など関係なく、間違いなく目的を120%達成したドラマだと思った。

2020年の東京オリンピックが本当に楽しみだ。いだてんありがとう!